「必要条件」は「必然条件」の誤訳です
学習指導要領を改訂しましょう
アマチュア研究者
村山継義
Email:tmurayama@jcom.zaq.ne.jp
1. このHome Page の目的
2. 誤訳の要約
3. 誤訳の内容の説明
1. 必要条件
1-1. 現状
高等学校の数学Ⅰの教科書では命題 「 p ⇒ q」が成立するとき p は q の「十分条件」 といい q は p の 「必要条件」というと教えています。 先生は当然そのように説明する でしょう。生徒は 「?! なんで q が p に必要なのだ?」 と疑問に思うでしょう。
1-2. 誤訳の内容の説明
日本の 「十分条件」「必要条件」に対応する事柄をアメリカでは次のように説明 しています。
1. 正 訳
P であれば Q である という場合に、Q は P の 必然 である。 なぜなら Pが真である ということが Q が真であることを保証しているからである。 (言い換えると Q なしでは Pは存在しえない。) となります。
2. 誤 訳
(学習指導要領の混乱のもととなったと思われるもの)
P であれば Q である という場合に、 Q は P に 必要である。 なぜなら P が真である
ということが Q が真であることを保証しているからである。 (言い換えると Q なしでは
P は存在しえない。) となります。
この 文章は 意味が分からないでしょう。 これは誤訳です。 そしてこの稚拙な誤訳から
「必要条件」 という迷惑な用語が生まれたと思われます。残念 あの福沢先生はその場におられなかったのでしょう。
ここで 上の 正訳ができるのは 恐らく necessary には 必然のという 第二の 用法もあることを知っている英文科あたりの大学生以上の英語力のある人でしょう。 中学・ 高校生 そして一般の大学生は 恐らく necessary = 必要な と考えて 意味不明の誤訳になってしまうでしょう。
American Heritage Dictionary
https://www.//ahdictionary.com
注 2
Oxford Learner's Dictionaries https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/necessary?q=necessary
necessary
1. that is needed for a purpose or a reason
2. [名詞の前で] that must exist or happen and cannot be avoided SYNONYM inevitable
用例 This is a necessary consequence of progress.
これは進歩の当然の結果である。
2. 有理数・無理数
現状 と誤訳の説明
中学校の教科書では a/b のように分数で表すことのできる数
を有理数といい、有理数でない数を無理数という と教えています。
一方 アメリカの数学協会 American Mathmatical Society(AMS) は
訳
irrational number とは その定義から 整数の比で書くことのできない数である。
4. 誤訳の弊害
1. 必要条件
高等学校の数学Ⅰの教科書では命題 「 p ⇒ q」が成立するとき
p は q の「十分条件」 といい q は p の「必要条件」というと定義されています。 先生はなんと説明するでしょうか? 「p ⇒ q」の時は p
であれば必然的に q になるということです。 だから q を p の (「必然条件」と言わずに) 「必要条件」 というのですと説明するでしょう。 さてどれだけの生徒が、納得するでしょうか。
高等学校の学習指導要領ではその目的に
「数学のよさを認識し数学を活用しようとする態度、粘り強く考え数学的論拠に基づいて 判断しようとする態度、問題解決の過程を振り返って考察を深めたり、評価・改善したりしよう とする態度や創造性の基礎を養う。」 と述べています。
けれども
p ⇒ q が成立するとき q は p の 必要条件 であるといっても 数学的論拠に基づいて
説明できるでしょうか。 必要条件という誤訳で説明する限りそれは不可能でしょう。
教育の現場 特に受験の現場では 「そういうのだから仕方がない。」「いいから覚えろ。」
と問答無用の世界になっているのではないでしょうか。
net の動画で、 ある予備校の講師は、「システムとして覚えてください。 一番やってほしくないことは 「必要条件」と日本語で
考えることです。」 と教えています。
この実態に 「数学的論拠に基づいて判断する態度」 をすすめる 学習指導要領は空文に堕しています。 「必要条件」という誤訳を用いた欠陥のある学習指導要領を改定 しない限りこの悲劇は永遠に続くことでしょう。 半世紀以上も昔 物理学校(東京理科大)出の私の熱血先生が 一通りの説明の後で、「必要条件」とつぶやいて 一人首をひねっていた 姿が、このHome Pageの 作成の原点になっています。
2. 有理数・無理数
有理数・無理数という意味不明な用語は 中学生の数学の正しい理解の妨げになっています。 これから本格的に数学の世界に入ろうという中学生に 可分数、非分数 という理解できる 用語でなく誤訳から生まれた 有理数・無理数 というなじみにくい用語を押し付ければ、「ああ分らないもうだめだ。」 と数学嫌いを生み出すかもしれません。 不適切な学習指導要領の罪ではないでしょうか。
5.文部科学省
私はこれらの問題を取り除くには学習指導要領の改定が必要だと考えました。 学習指導要領の所管は文部科学省の 初等中等教育局なので、私は当局にこの用語の改定 について過去3年半 40通を超えるFax を送ってお願いしております。 初等中等教育局は 学術的な研究グループの指摘か 教育現場のからの 指摘なら考えるが 一市民の要請には応じられない。 とのことで見通しが立ちません。 止むを得ず、Home Page で皆様のお力をお借りしようと 考えた次第です。
6.学術的な研究グループの方々 そして教育現場の関係者の皆様にお願い
私はビジネスの世界に終始した経歴で 現在は IT技術者に転じています。数学のアマチュア です。 私がこれからこの問題で SNS その他 社会運動・政治運動を展開するのはいささか能力を超えています。しかし学習指導要領の改訂を 面倒がってこのまま放置することは日本の中学・高校生と彼らを教える教員に対して不誠実な態度ではないでしょうか。「定着している。」 といった議論は「既得権益者」の間だけのことであって、これから学ぶ中学・高校の生徒に対しては何の正当性もありません。 中学・高校生の数学の正しい教育について影響力をお持ちの 学術的な研究グループの方々、そして 教育現場の関係者の 皆様方のお力添えに委ねたいと存ずる次第でございます。
以 上